NPAコラム

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防災トイレ事情~後々のことを考えたい

 2024年3月1日

 相川康子 NPO政策研究所専務理事(明石市在住)

 

 元日の能登半島地震で被害に遭われた方に、心からお見舞い申し上げます。

 被災者を苦しめる事柄の一つに、トイレ問題がある。自分が出したものとはいえ、水洗トイレに慣れた身にとって、汚物がたまり続ける状態というのは、なんともつらいものだ。

 

 仮設トイレを設置すれば解決する、という問題ではない。仮設トイレには公共下水道接続型やし尿凝固型もあるが、一般的なのは工事現場や屋外イベントでおなじみの「くみ取り型」だ。タンクの中央に偏る汚物を棒でならす作業や、満杯になったらバキュームカーで吸い出すといったメンテナンスが欠かせない。下水道の普及に伴って全国的にバキュームカーが減り、能登の被災地でも、他の自治体や民間事業者の協力を得て、なんとか必要台数をかき集めている状況という。

 

 マンホールや下水管につなぐタイプは、下水管が破損している場合は使えない(用を足すことはできるが、破損個所で漏れ出す恐れがある)。在宅避難でも多用される凝固剤は、固めた汚物をどうやって衛生的に保管・運搬・処理するのか、通常の方法とは異なるだけに注意が必要だ。

 

 2022年に東京で開かれた日本トイレ研究所主催の防災トイレフォーラムで、阪神・淡路大震災時の“トイレパニック”の事例報告をした際、改めて最近の防災トイレ事情を調べてみた。衛生やバリアフリー面で進化した一方、汚物だけでなく用済みの仮設トイレも含めて誰がどう処分するのか、後々のことについては相変わらず顧みられていないと感じた。

 

 能登の被災地では、完結型のトイレトレーラーも活躍している。清潔な水洗トイレが4台程載った車両で、断水でも使え、移動できるのが魅力だ。(一社)助けあいジャパンは、全国の自治体がトイレトレーラーを保有して災害時に融通しあう「みんな元気になるトイレ」事業を進めている。導入費用は約1500万円で、7割は国の緊急減災・防災事業債が使える。近畿では箕面市や亀岡市、奈良の田原本町が

残りの経費をクラウドファンディングで集めて導入し、能登の地震後すぐに現地に派遣している。

 

 さてトイレといえば、来年の大阪・関西万博での「2億円トイレ」が物議を醸している。報道によると、約40カ所整備するトイレの2割を若手建築家が設計する「デザイナーズトイレ」とし、うち2カ所を各2億円で契約したという。会期が終われば撤去するデザイナーズトイレに巨額の費用をかけるぐらいなら、トイレトレーラーを先行購入して、被災地に貸し出すぐらいの度量があってもいいのに…と思うのは私だけだろうか。 

 

 

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